『新・人間革命』第13巻 楽土の章 P365~

「岸山さんは、名護の広宣流布に決然と立ち上がったから、過去世の罪障が一気に出て来たんです。信心の旗を掲げ持ったがゆえに、魔も激しく競い起こった。彼女が倒れれば、名護の広宣流布は大きく後退するからです。仏法の視座に立って考えるならば、大苦悩を受ける意味も、明らかになります。」

「娘さんたちは、三世の生命観に立つならば、今世で罪障を消滅し、永遠の幸福の軌道に入るために、生まれて来たということなんです。来世は、必ず、幸せになって生まれてきます。」

「岸山さんが、さらに強情な信心を貫き通していくならば、いつか、きっと、心の底から"そうなんだ"
と確信できる日が来ます。本当の大功徳は、どんな大苦悩に直面しても、決して負けない自分自身をつくり、何があっても、揺るがない大境涯を築いていけるということなんです。それが、絶対的な幸福境涯です。」

もし、岸山さんが、今回の問題を乗り越えていったら、どんなに大きな苦しみを抱えた人にも、勇気を与えることができるでしょう。万人を奮い立たせる力をもつことになるでしょう。大変な宿命を背負っているということは、同時に大使命を担っていることになる。どうか、『負けるな、断じて、負けるな。あなたが、元気であり続けることが、信心の力の証明です』と伝えてください。」と激励した。

富士子は、「私は負けません。名護の人たちに、『学会は正しかった。すごい宗教だ』と言われるまで、頑張り抜きます」
と夫婦ともに、一生懸命信心に励んだ。

米軍の将校が村の困りごとがあるか村長に聞いた時、岸山一家が火事で焼け出されたことを伝えると、基地にある家屋をリフォームして、道路を通行止めにして、トレーラーで家を運んでくれ、家をもらうことができた。岸山夫妻は、家をもらった人として、ますます有名になった。

強い確信を持った夫妻は、毎日弘教に歩いた。富士子は胸を張って言った。「私たちは、長男を病気で亡くし、さらに火事で娘二人を失い、皆さんにもご迷惑をおかけしました。でも、めげずに立ち上がりました。」

「信心をしても、人生にはさまざまな試練があるものです。考えられないような大きな悲しみに出会うこともあると思います。それでも、どんなことがあろうが、負けずに生きていく力の源泉が信仰なんです。私たちは、必ず幸福になります。見ていてください」

その叫びが、次第に、人びとの疑念を晴らしていった。悲しみの淵から、敢然と立ち上がった岸山夫妻の姿に共感し、信心をする人も出始めた沖縄では、あの戦争で何人もの家族を失った家が少なくなかった。そうした辛酸をなめてきた人たちは、岸山夫妻の"強さ"が、いかに尊いことであるかが、よくわかるのであった。

富士子は思った。"仏法は、「煩悩即菩提」「生死即涅槃」と説く。長男も二人の娘も、私にそれを証明させるために、亡くなったにちがいない。いや、その使命を、私に与えるために生まれてきたのだ"

彼女は、亡きわが子たちに誓った。"母さんは、自分の生き方を通して、信心の偉大さを証明してみせる。負けないよ。何があっても負けないからね。お前たちの死を決して無駄にしないから・・・"

また、夫妻は、社会に迷惑をかけたのだから、その分社会に尽そうと、地域への貢献に力を注いだ。
あの火事から、7年余りの歳月が流れていた。岸山富士子を、山本伸一は、包み込むように励ました。



太字は 『新・人間革命』第13巻より 抜粋