『新・人間革命』第10巻 新航路の章 P234~

日蓮大聖人は、こう仰せである。「魚は命を惜しむ故に池にすむに池の浅き事を歎きて池の底に穴をほりてすむしかれども餌にばかされて釣をのむ」「人も又是の如し世間の浅き事には身命を失えども大事の仏法なんどには捨つる事難し故に仏になる人もなかるべし」

自分のみの小さな目先の幸せを追い求め、汲々としている人間には、その精神の崇高さは、決してわかるまい。

生命は尊厳無比である。これに勝る財宝はない。そうであるからこそ、この一生をいかに生き、その尊い生命を、なんのために使うのかが、最重要のテーマとなる。大聖人は、仏法のため、すなわち、広宣流布のために、命を使っていきなさいと言われているのである。

なぜならば、そこに、一生成仏という絶対的幸福境涯を確立しゆく、直道があるからである。メンバーはそれを、確信していた。彼らを喜んで送り出した家族の多くもまた、同じ心であった。

札幌の小野田は、母親に西ドイツに行きたいと告げると、「せっかく行くのだから、一生涯、ドイツ広布に生き抜きなさい。」と言って送り出してくれた。

メンバーは 渡航費用を捻出するため苦労し、アルバイトなどをした。皆が渡航準備を進めていたが、その頃から西ドイツの景気が急速に悪化し、外国人労働者が 解雇されている状況になっていた。

諸岡は 新婚早々、妻を残し、先発隊として西ドイツに出発することにした。一方、佐田も女子部員の雪子と見合いをした。1時間ほど 話をしたあと、西ドイツに行くか明日返事が欲しいと言われた雪子は、夜通し唱題をし、結婚することに決めた。家族は最初、反対したが、決意が固いのを知り、応援してくれた。

伸一は、夏期講習会の時に、西ドイツへ渡るメンバーを招待し、激励した。「ありがたいな・・・。皆さんこそ、広宣流布のパイオニアです。学会の宝です。誰かが、礎を築かなければならない。誰かが、道を開かなければならない。私とともに、また、私に代わって、世界広布を頼みます」その言葉は、メンバーの生命に、熱い感動の矢となって突き刺さった。

結婚早々、西ドイツに出発することになった佐田雪子と諸岡三千代は、伸一から、個人的に激励を受ける機会を得た。「向こうでの生活は、想像以上に大変なはずです。しかし、絶対に負けてはいけません。必ず幸せになっていくんです。それには、純粋な信心を貫き、お題目を唱えきっていく以外にありません。ご主人を支えていくのが妻です。あなたたちが、負けなければ、ご主人たちは頑張れる。」

「何があっても、へこたれないことです。明るく、楽しく、使命のヒロインとして、人生の大ドラマを演じてください。私も、近々西ドイツに行きます。その時にまたお会いしましょう。」二人の婦人の決意は、この伸一の言葉で、いよいよ不動のものとなった。

西ドイツに渡る一行12人は、横浜港を出発した。渡航費用を少しでも安くするために、船でソ連のナホトカに行き、そこから、列車と飛行機を乗り継いで大陸を横断すると言う旅となった。

一方、先発隊として、先に西ドイツ入りしていた諸岡は、そのころ、必死になって、青年たちの受け入れ先を探していた。当初、メンバーを受け入れてもらうことになっていた、カストロブラウクセル市の炭坑も、外国人労働者を採用する余裕はなくなったとのことで、就職の道が閉ざされてしまったのである。諸岡は、全身から血の気が引く思いであった。

“みんな、既に仕事を辞めてしまっている。今更、西ドイツ行きを中止するわけにはいかない。なんとかしなければ・・・”日々、奔走した。しかし、どこからも採用の返事はもらえなかった。そして、遂にメンバーは、日本を出発してしまったのである。


太字は 『新・人間革命』第10巻より 抜粋

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