『新・人間革命』第20巻 懸け橋の章 270P~
ソ連首脳の訪日は、日本政府にとっても、大きな関心事であった。前年10月、田中角栄首相が訪ソし、日ソ平和条約の交渉継続を合意していた。しかし、ソ連首脳の訪日については、一向に具体化しなかった。
首相は答えた。「訪日の計画はあります。ブレジネフ書記長も、N・V・ポドゴルヌイ最高会議幹部会議長も訪日を希望しています。年内は無理でしょうが、日程も検討しています。」
伸一は、首相の話が一段落すると語り始めた。伸一は、創価学会と公明党の立場の違い、宗教団体と政党との次元の違いを、首相に正しく認識してもらいたかった。言うべきことを、言うべき時に、明確に語っていく勇気が必要である。あいまいさは、後々の大きな誤解を生む元凶となる。
それから、伸一は、創価学会の歴史に触れ、学会が軍部政府の弾圧と戦ってきたことを述べた。さらに、メンバーの平和のスクラムは、全世界へと広がっていることを語った。
首相は、静かに頷くと、伸一に尋ねた。「あなたの根本的なイデオロギーは何ですか」伸一は即座に答えた。「それは、平和主義であり、文化主義であり、教育主義です。その根底は人間主義です。」
伸一の生き方の根本にあるのは、仏法の生命尊厳の哲理を根底にして、人類の幸福と平和を打ち立てることである。人間の生命を磨き、豊かな社会を築き上げることである。つまり、広宣流布であり、立正安国の実現である。
しかし、それを、そのまま表現したとしても、本当の意味は伝わらなないに違いない。仏法を根底にした私たちの主張や思想も、社会に即した表現がなされてこそ、説得性をもち、人びとの理解と共感を得ることが可能になるのだ。
コスイギン首相は、張りのある大きな声で語り始めた。「山本会長の思想を、私は高く評価します。その思想を、私たちソ連も、実現すべきであると思います。今、会長は、『平和主義』と言われましたが、私たちソ連は、平和を大切にし、戦争を起こさないことを、一切の大前提にしています」
最も語り合いたかったテーマに、話は移っていた。コスイギン首相の目には、平和建設の決意が燃えていた。伸一は、首相を凝視しながら、強い語調で訴えた。「ソ連の人びとと同様に、中国の人びとも、平和を熱願しております。中国は、決して侵略主義の国ではありません」語らいは、まさに佳境に入ろうとしていた。
その年の3月から8月にかけて、ソ連軍と中国軍の衝突があり、中ソ関係は緊迫していたのだ。伸一は、3か月前に中国を訪問した実感を、コスイギン首相に伝えた。
「中国の首脳は、自分たちから他国を攻めることは絶対にないと言明しておりました。しかし、ソ連が攻めてくるのではないかと、防空壕まで掘って攻撃に備えています。中国はソ連の出方を見ています。率直にお伺いしますが、ソ連は中国を攻めますか」
首脳は鋭い眼光で伸一を見すえた。その額には汗が浮かんでいた。そして、意を決したように言った。「いいえ、ソ連は中国を攻撃するつもりはありません。アジアの集団安全保障のうえでも、中国を孤立化させようとは考えていません」
「そうですか。それをそのまま、中国の首脳部に伝えてもいいですか」コスイギン首相は、一瞬、沈黙した。それから、きっぱりとした口調で、伸一に言った。「どうぞ、ソ連は中国を攻めないと、伝えて下さって結構です」
伸一は、笑みを浮かべて首相を見た。「それでしたら、ソ連は中国と、仲よくすればいいではないですか」首相は、一瞬、答えに窮した顔をしたが、すぐに微笑を浮かべた。心と心の共鳴が笑顔の花を咲かせた。
さらに話題は、核兵器の問題に移っていった。首相は、憂いをかみしめるように語った。「既に現在、核は全世界が滅びるほど、充分にあります。」「核兵器をこのまま放置しておけば、ヒトラーのような人間がいつ現れて、何が起きないとも限りません。そうなれば、地上の文明を守る手立てはないのです。人類は遅かれ早かれ、核軍縮を決定するに違いありません」その言葉に伸一は驚きを隠せなかった。
太字は 『新・人間革命』第20巻より 抜粋
ソ連首脳の訪日は、日本政府にとっても、大きな関心事であった。前年10月、田中角栄首相が訪ソし、日ソ平和条約の交渉継続を合意していた。しかし、ソ連首脳の訪日については、一向に具体化しなかった。
首相は答えた。「訪日の計画はあります。ブレジネフ書記長も、N・V・ポドゴルヌイ最高会議幹部会議長も訪日を希望しています。年内は無理でしょうが、日程も検討しています。」
伸一は、首相の話が一段落すると語り始めた。伸一は、創価学会と公明党の立場の違い、宗教団体と政党との次元の違いを、首相に正しく認識してもらいたかった。言うべきことを、言うべき時に、明確に語っていく勇気が必要である。あいまいさは、後々の大きな誤解を生む元凶となる。
それから、伸一は、創価学会の歴史に触れ、学会が軍部政府の弾圧と戦ってきたことを述べた。さらに、メンバーの平和のスクラムは、全世界へと広がっていることを語った。
首相は、静かに頷くと、伸一に尋ねた。「あなたの根本的なイデオロギーは何ですか」伸一は即座に答えた。「それは、平和主義であり、文化主義であり、教育主義です。その根底は人間主義です。」
伸一の生き方の根本にあるのは、仏法の生命尊厳の哲理を根底にして、人類の幸福と平和を打ち立てることである。人間の生命を磨き、豊かな社会を築き上げることである。つまり、広宣流布であり、立正安国の実現である。
しかし、それを、そのまま表現したとしても、本当の意味は伝わらなないに違いない。仏法を根底にした私たちの主張や思想も、社会に即した表現がなされてこそ、説得性をもち、人びとの理解と共感を得ることが可能になるのだ。
コスイギン首相は、張りのある大きな声で語り始めた。「山本会長の思想を、私は高く評価します。その思想を、私たちソ連も、実現すべきであると思います。今、会長は、『平和主義』と言われましたが、私たちソ連は、平和を大切にし、戦争を起こさないことを、一切の大前提にしています」
最も語り合いたかったテーマに、話は移っていた。コスイギン首相の目には、平和建設の決意が燃えていた。伸一は、首相を凝視しながら、強い語調で訴えた。「ソ連の人びとと同様に、中国の人びとも、平和を熱願しております。中国は、決して侵略主義の国ではありません」語らいは、まさに佳境に入ろうとしていた。
その年の3月から8月にかけて、ソ連軍と中国軍の衝突があり、中ソ関係は緊迫していたのだ。伸一は、3か月前に中国を訪問した実感を、コスイギン首相に伝えた。
「中国の首脳は、自分たちから他国を攻めることは絶対にないと言明しておりました。しかし、ソ連が攻めてくるのではないかと、防空壕まで掘って攻撃に備えています。中国はソ連の出方を見ています。率直にお伺いしますが、ソ連は中国を攻めますか」
首脳は鋭い眼光で伸一を見すえた。その額には汗が浮かんでいた。そして、意を決したように言った。「いいえ、ソ連は中国を攻撃するつもりはありません。アジアの集団安全保障のうえでも、中国を孤立化させようとは考えていません」
「そうですか。それをそのまま、中国の首脳部に伝えてもいいですか」コスイギン首相は、一瞬、沈黙した。それから、きっぱりとした口調で、伸一に言った。「どうぞ、ソ連は中国を攻めないと、伝えて下さって結構です」
伸一は、笑みを浮かべて首相を見た。「それでしたら、ソ連は中国と、仲よくすればいいではないですか」首相は、一瞬、答えに窮した顔をしたが、すぐに微笑を浮かべた。心と心の共鳴が笑顔の花を咲かせた。
さらに話題は、核兵器の問題に移っていった。首相は、憂いをかみしめるように語った。「既に現在、核は全世界が滅びるほど、充分にあります。」「核兵器をこのまま放置しておけば、ヒトラーのような人間がいつ現れて、何が起きないとも限りません。そうなれば、地上の文明を守る手立てはないのです。人類は遅かれ早かれ、核軍縮を決定するに違いありません」その言葉に伸一は驚きを隠せなかった。
太字は 『新・人間革命』第20巻より 抜粋