『新・人間革命』第20巻 信義の絆の章 370P~

ワルトハイム国連事務総長との会談を終えた山本伸一は、国連本部内で記者会見した。詰めかけた50人ほどの記者たちの質問に答えながら、伸一は、国連への期待と、国連を守る決意を語った。

さらに彼は、日本の、国連大使と懇談した後、日本協会主催の歓迎レセプションに向かった。レセプションには、学界、経済界などのリーダーら80人が集った。伸一は、この席でスピーチをするように依頼されていたのである。

彼は約40分にわたって、新しき時代を開く人間哲学について語った。伸一は、科学技術の進歩に伴うさまざまな人類の危機が指摘されているが、今こそ、「人間」に眼を向けることの大切さを強調。新しいヒューマニズム、人間の心のルネサンスが求められていることを語った。

伸一は、人間の心のルネサンスのためには、人間とは何かを解明し、生命変革の実践法理を打ち立てた仏法哲理が不可欠であると訴えた。次いで、その仏法の理念に立脚して、人類が究極的にめざすべき新しい方向を示したのである。

「一つには、20世紀後半の人類が持たなければならない価値観とは、単に一つの社会、国家に基盤をおいた狭隘なものではなく、全人類的な視点、全地球的な視野に立ったものでなければならない。二つには、人間が生命的存在であるという認識に立つことであります。」

「人間が生命的存在であるということは、いかなる社会、国家、民族をも超えて普遍的であり、かつ絶対的な事実であります。それに対して、社会的存在としての人間は、時代、民族、国家の違いによってことなってくる。」

「つまり、『縦には人間存在の根源である生命的存在に立脚し、現実行動のうえでは、ヨコに、その生命的存在を共通とする地球人類という不変の連帯をもつこと』こそ、現代に必要な視座であると訴えたいのであります」

皆、初めて聞く話である。仏法の生命観を根本にした伸一の話に、参加者は頷きながら真剣に耳を澄ましていた。さらに、伸一は、自分が「教育国連」の設置を提唱してきたのも、各分野での国際協力を底流で支える、"われら地球人"という意識を根付かせる啓発的教育のためであることを述べった。

地球人類という不変の連帯を築くことは、厳しいイデオロギーの対立、国家エゴの渦巻く現実から見る時、あまりにも理想的すぎると一笑されるかもしれない。しかし、彼は、「あえて、このインポッシブル・ドリーム(見果てぬ夢)を、私の生ある限り追い求めていきたい」と宣言したのである。

「これからも人類の頭上には幾たびも冬の季節が猛然と襲ってくるでありましょう。人間連帯の平和の拠点を不屈の信念と勇気で築き上げていかねば、人類の輝かしい明日はありえません。志を同じくするすべての人びとと手を取り合い、平和へ、果敢なる挑戦をしていきたいというのが私の偽りのない心情です」スピーチが終わると、大拍手が会場に響きわたった。

参加者からは「学会の理念とするヒューマニズムの意味を理解することができ、大変に感銘を深くした」など、多くの共感の声が寄せられた。伸一は、すべてに真剣勝負であった。このスピーチも世界の指導者たちに語りかける思いで、仏法の英知から導き出された時代開拓の道を、全力で訴えたのである。原稿の作成にも何日も費やし、推敲に推敲を重ねた。

”集ってくる日本協会の方々は、私のスピーチを聴かれるのは初めてであろうし、ほとんどの参加者は、もう、こうした機会はないにちがいない。まさに一期一会といえよう。それならば、仏法哲理との鮮烈な出会いとなる講演にしなくてはならぬ”彼は、その思いで、ここに臨んだのだ。

いや、このスピーチに限らず、各国の要人と会う時も、メンバーを激励する時も、学会のさまざまな会合に出席する時も、常にその覚悟で準備にあたり、渾身の力を振り絞ってきたのである。だからこそ、魂をゆさぶるのだ。だからこそ、共感があり、感動が広がるのだ。それが、人と会い、会合に臨む、すべての幹部の心構えでなければならない。


太字は 『新・人間革命』第20巻より 抜粋