『新・人間革命』第8巻 布陣の章 P80~


総支部長の野川は、奄美諸島は、歴史的にも不幸な過去をもち、毎年、台風のたびごとに、大きな被害を出し、島民は塗炭の苦しみにあえいでいる。その奄美の宿命を変えるのが私たちだと訴え、『苦労し、不幸に泣いてきた地域ほど、強い組織になるものだ』との山本会長の言葉を通し、みんなで力を合わせて、この奄美に、日本一の総支部をつくろうと呼びかけた。

参加者は、野川の呼びかけに応えた。打てば響く、絶妙な呼吸であり、意気天を衝くかのごとき勢いである。

いよいよ会長山本伸一の講演となった。「功徳には、祈りの結果が、直ちに目に見える利益、つまり顕益と、目には見えない利益である、冥益とがあります。大聖人の仏法は、このうち、冥益が主となって、私たちに幸福をもたらしてくれます。」

「本当の功徳とは、信心をしたら大金が手に入ったとかいうものではありません。・・・自分は何もせずに、どこから幸運が舞い込んでくるのが功徳だとしたら、かえって、人間を堕落させてしまいます。では冥益とは何か。」

「たとえば、木というものは、毎日、見ていても何も変化していないようい見えますが、5年、10年とたつうちに、大きく成長していきます。それと同様に5年、10年、20年と信心に励むうちに、次第に、罪障を消滅し、宿命を転換し、福運を積み、大利益を得ることができるのが冥益であり、それが大聖人の仏法の真実の功徳なのであります」

多くのメンバーは、功徳といえば「顕益」と思い込んできた。それだけに、「冥益」の話に、驚いた人もいた。伸一は、皆に正しい信仰観を確立してほしかったのである。
「冥益とは、言い換えれば、信仰によって、生命力と知恵を湧現し、人格を磨き、自らを人間革命して、崩れざる幸福境涯を築くということでもあります。」

「広宣流布といっても、その縮図は、家庭のなかにあります。一家が仲良く、楽しく、誰からも羨まれるような家庭になってこそ、信心の証といえます。」

「そして、その幸福をつかむには、難を乗り越えなくてはない。正法には、必ず難があります。悪と戦うがゆえに、難が競い起こるのです。大変だなと思われるかもしれませんが、風がなければ、凧も揚がりません。私どもも、悪と戦い、難を受けてこそ、磨き、鍛えられ、人格の光彩を増していくです。」

奄美大島にこれだけの人が集うことは、社会的にも大きなニュースであった。大島新聞でも「その数は7千人余り・・・塩浜への道はただ一本というわけで弁天山下の道路は大変な混雑ぶり“創価学会”の腕章をつけた青年部の連中が交通巡査よろしく交通整理。海岸中央突堤の四辻では本職のお巡りが手持無沙汰のかっこうだった」と皮肉めいて書いている。

その後、幹部の指導会が行われ、伸一は、奄美の人たちの困っている問題を聞く。ハブの被害や台風の被害についての声があがった。

「政治の次元で対応していくべきことも多いが、問題解決の根本となるのは、みんなの祈りの一念だよ」

「一念は大宇宙を包むと教えているのが仏法だ。人の一念が変われば衆生世間が変わり、国土世間も変わる。それが依正不二であり、一念三千の原理だ。だから、学会員が増え、みんなが題目を唱えるようになれば、どんな環境でも変えていくことができる。

「すべては人の一念から始まる。たとえば、台風で吹き飛ばされない家はどんな家か被害の少ない農作物は何かなどの研究や工夫も、一念から生まれる。さらに、行政を動かしていくのも一念だよ。自分たちのいるところを常寂光土とし、幸福と平和の天地にしていくことが、私たちの使命だ。」



太字は 『新・人間革命』第8巻より