『新・人間革命』第21巻 共鳴音の章 276P

千田は御本尊を受け、活動にも参加した。彼の願いは、菓子作りを学べる、よい修行先が見つかることであり、それを真剣に祈った。仕事を命じられてもフランス語がわからず、怒鳴られることもたびたびであった。

昼休みも、昼食を早々に切り上げ、搾り袋を使って、クリームで文字や模様を描く練習をした。寸暇を惜しんで、努力に努力を重ね、また、懸命に唱題に励んだ。

72年には、フランスの伝統ある菓子コンクールの一つである「ガストロノミック・アルバジョン・コンクール」で銅賞を獲得する、日本人としては、初めての入賞であった。

パリ会館の食堂で、伸一は、料理担当のメンバー全員に語りかけた。「食事を担当してくださっている皆さんの陰の力があるからこそ、行事の大成功もある。心から感謝申し上げます。」

伸一は、料理担当のメンバーでグループを結成しようと提案し、美しいマロニエの花にちなみ、マロニエ・グループと名づけた。

「マロニエ・グループは、自分自身を磨き、鍛えるマロニエ大学、人間大学であると思ってください。人生は挑戦です。努力です。勉強です。工夫です。その積み重ねのなかに勝利があります」

伸一は、友を励ますために、一瞬一瞬、真剣勝負で臨んでいた。「励ます」の「励」という字は「万」と「力」からなっている。全力を尽くしてこそ、真の励ましなのだ。

この5月16日の夜、文化ホール「サル・プレイエル」で、16か国三千人のメンバーが集って、欧州友好祭が晴れやかに行われた。

「やがてヨーロッパが統合され、国境でパスポートを提示する必要がなくなる時代がきっときますよ。それが時代の流れです。そのために、ヨーロッパに求められるのは、精神の連帯です。国家民族などを越えて、心と心を結び合うことができる哲学が、必要不可欠になります。それを担うのが、私たちの人間主義の運動なんです。今日は、そのスタートとなる集いです。」

伸一は語った。「学会の組織は、各人の主体性を生かすためにあり、拘束するためのものではありません。創価学会という組織のなかに個人があるのではなく、個人の心のなかに創価学会があるんです。つまり、創価学会員であるという自覚こそ、個人の良心の要であり、勇気の源泉となるんです。」

それから伸一は、フランスの中核の一人である、画家の長谷部彰太郎の家へ向かった。

長谷部は、前年来日した折に、フランスに家を買うべきかどうか、山本伸一に相談した。伸一は言った。「将来ではなく、すぐにでも買える境涯になってください。フランス社会で信用を勝ち得ていくには、フランスに家を持ち、地域に根を張り、信頼を獲得していくことが大事だからです。それには、断じてフランスに家を購入するぞと決めて、真剣に祈ることです。」

「フランスの人びとの幸福と繁栄のために、広宣流布を誓願し、祈り抜いていくことです。たとえば、”私はフランス広布に生き抜きます。それには、社会の信用を勝ち取るためにも、皆が集える会場にするためにも、家が必要です。どうか、大きなすばらしい家を授けてください”と祈るんです」


「人びとに絶対的幸福の道を教える広宣流布を誓い、願う題目は、仏の題目であり、地涌の菩薩の題目です。その祈りを捧げていく時、わが生命の仏界は開かれ、大宇宙をも動かしていける境涯になる。ゆえに、家を購入したいという願いも、確実に叶っていくんです。」

「ただ大きくて立派な家をくださいというだけの祈りでは、自分の境涯はなかなか開けない。
祈りの根本は、どこまでも広宣流布であり、広布のためにという一念から発する唱題に、無量無辺の功徳があるんです」広宣流布の誓願のなかにこそ、所願満足の道があるのだ。

長谷部は、来る日も来る日も、必死になって祈り続けた。気に入った家が見つかったが、問題は金額であった。ところが、幸いにも、公的な金融機関が、頭金以外の全額を融資してくれることになったのだ。そしてなんと、伸一が訪問する1か月ほど前に、家を購入することができたのである。

太字は 『新・人間革命』第21巻より 抜粋