『新・人間革命』第7巻 操舵の章 P319~
山本伸一は、前年10月の“キューバ危機”を思い起こした。
ケネディは、現代人のおかれた状況を、古代ギリシャの故事にある「ダモクレスの剣」にたとえた。大量の核兵器の下で生きている人類の姿は、この「ダモクレス」と同じであると指摘したのである。
それから1年後に、“キューバ危機”が起こった。
ケネディならば、恩師の「原水爆禁止宣言」の心を深く理解するであろうし、彼の偉大な人格は、全人類の幸福と平和を願う恩師の精神と、共鳴の調べを奏でるにちがいないと、伸一は確信していた。
彼は、そのために、ケネディに提案したいことがあった。それは、米ソ首脳会談の早期再開であった。また、伸一は、核を廃絶し、恒久平和への流れを開くために、米ソ首脳会談とともに、世界各国の首脳が同じテーブルに着き、原水爆や戦争の問題などを忌憚なく語り合う、世界首脳会議の開催も提案しようと考えていた。
「相互不信」「疑心暗鬼」という、暗い深淵が横たわっている。この深淵を埋めるのは、各国の最高指導者の胸襟を開い語らい以外にない。もちろん、伸一は、一朝一夕で「不信」が「信頼」に変わるほど簡単なものではないことは、よくわかっていた。
だが、対話へと踏み出さずしては、永遠に事態を変えることはできない。一見、迂遠な道のように見えても、結局は、それが平和への最も近道であるというのが、彼の信念であった。
彼は、世界の平和への突破口を開くために、ケネディとの語らいに多大な期待を寄せていた。いや、そこにかけていたといってよい。
ーーところが、その後の事態は思わぬ展開を遂げることになる。
極秘で準備を進めていたが、外部の知るところとなり、突然、政権政党の大物といわれている古老の代議士が、伸一に会見を求めてきたのだ。
代議士は、ケネディと会うことに難癖をつけ、自分たちの圧力で、いつでも会見などつぶしてみせるという威嚇であった。
代議士は、伸一の反応をうかがいながら、「私が骨を折ろうと思う。私が動けば、反対を抑え込むことはできる」「その代わりといってはなんだが、君にも力を貸してもらいたい」と話す。
伸一は、黙って聞いていたが、彼の頭は目まぐるしく回転していた。
ーーこの代議士の狙いは明らかだ。私に恩を着せ、それを糸口に、学会を政治的に利用しようというのであろう。
この純粋な学会の世界が掻き回されるようなことは、絶対避けなければならない。しかし、この政治家の意向を無視すれば、ケネディ大統領との会見をつぶしにかかるだろう。そして自分たちの力を見せつけ、勝ち誇ったように、何度でも、自分の軍門に下れと言ってくるにちがいない。
こんな政治家たちに付け入る隙など、あたえてなるものか!
守るべきは学会である。私は自分のために会おうというのではない。彼らにお願いしてまで、合わせてもらう必要はない。伸一は航路を急旋回させたのである。
「ケネディ大統領との会見の話は、なかったことにいたしましょう。すべて中止します。」
伸一の回答は、あまりにも、予想外であったのであろう。狼狽したのは、代議士の方であった。
「私は、皆さんのお力をお借りして大統領とお会いするつもりは、毛頭ありません。それでは話が違ってきます。また、大統領と会って、泊をつけようなどという卑しい考えも、私にはまったくありません。」
「私がケネディ大統領とお会いしようとしたのは、人類の平和への流れをつくりたかったからです。東西両陣営の対話の道を開きたいからです。公明会をつくったのも、民衆のための政治を実現させたいからです。現在の政権が、あまりにも民衆を度外視しているから、私たちが一石を投じたんです。」
代議士の額には、汗が噴き出していた。会見は終わった。
ケネディと伸一との会見は、こうして白紙に戻った。伸一は、学会に迫る、政治権力の影を感じた。
彼らの本質は、嫉妬以外の何ものでもない。
学会は、これからも、政治権力に、永遠に狙われ続けるであろうことを、覚悟しなければならなかった。
ケネディは、現代人のおかれた状況を、古代ギリシャの故事にある「ダモクレスの剣」にたとえた。大量の核兵器の下で生きている人類の姿は、この「ダモクレス」と同じであると指摘したのである。
それから1年後に、“キューバ危機”が起こった。
ケネディならば、恩師の「原水爆禁止宣言」の心を深く理解するであろうし、彼の偉大な人格は、全人類の幸福と平和を願う恩師の精神と、共鳴の調べを奏でるにちがいないと、伸一は確信していた。
彼は、そのために、ケネディに提案したいことがあった。それは、米ソ首脳会談の早期再開であった。また、伸一は、核を廃絶し、恒久平和への流れを開くために、米ソ首脳会談とともに、世界各国の首脳が同じテーブルに着き、原水爆や戦争の問題などを忌憚なく語り合う、世界首脳会議の開催も提案しようと考えていた。
「相互不信」「疑心暗鬼」という、暗い深淵が横たわっている。この深淵を埋めるのは、各国の最高指導者の胸襟を開い語らい以外にない。もちろん、伸一は、一朝一夕で「不信」が「信頼」に変わるほど簡単なものではないことは、よくわかっていた。
だが、対話へと踏み出さずしては、永遠に事態を変えることはできない。一見、迂遠な道のように見えても、結局は、それが平和への最も近道であるというのが、彼の信念であった。
彼は、世界の平和への突破口を開くために、ケネディとの語らいに多大な期待を寄せていた。いや、そこにかけていたといってよい。
ーーところが、その後の事態は思わぬ展開を遂げることになる。
極秘で準備を進めていたが、外部の知るところとなり、突然、政権政党の大物といわれている古老の代議士が、伸一に会見を求めてきたのだ。
代議士は、ケネディと会うことに難癖をつけ、自分たちの圧力で、いつでも会見などつぶしてみせるという威嚇であった。
代議士は、伸一の反応をうかがいながら、「私が骨を折ろうと思う。私が動けば、反対を抑え込むことはできる」「その代わりといってはなんだが、君にも力を貸してもらいたい」と話す。
伸一は、黙って聞いていたが、彼の頭は目まぐるしく回転していた。
ーーこの代議士の狙いは明らかだ。私に恩を着せ、それを糸口に、学会を政治的に利用しようというのであろう。
この純粋な学会の世界が掻き回されるようなことは、絶対避けなければならない。しかし、この政治家の意向を無視すれば、ケネディ大統領との会見をつぶしにかかるだろう。そして自分たちの力を見せつけ、勝ち誇ったように、何度でも、自分の軍門に下れと言ってくるにちがいない。
こんな政治家たちに付け入る隙など、あたえてなるものか!
守るべきは学会である。私は自分のために会おうというのではない。彼らにお願いしてまで、合わせてもらう必要はない。伸一は航路を急旋回させたのである。
「ケネディ大統領との会見の話は、なかったことにいたしましょう。すべて中止します。」
伸一の回答は、あまりにも、予想外であったのであろう。狼狽したのは、代議士の方であった。
「私は、皆さんのお力をお借りして大統領とお会いするつもりは、毛頭ありません。それでは話が違ってきます。また、大統領と会って、泊をつけようなどという卑しい考えも、私にはまったくありません。」
「私がケネディ大統領とお会いしようとしたのは、人類の平和への流れをつくりたかったからです。東西両陣営の対話の道を開きたいからです。公明会をつくったのも、民衆のための政治を実現させたいからです。現在の政権が、あまりにも民衆を度外視しているから、私たちが一石を投じたんです。」
代議士の額には、汗が噴き出していた。会見は終わった。
ケネディと伸一との会見は、こうして白紙に戻った。伸一は、学会に迫る、政治権力の影を感じた。
彼らの本質は、嫉妬以外の何ものでもない。
学会は、これからも、政治権力に、永遠に狙われ続けるであろうことを、覚悟しなければならなかった。
太字は 『新・人間革命』第7巻より