『新・人間革命』第21巻 共鳴音の章 311P

マルロー邸は、芝生の広がる緑の館であった。会談では、日本の針路をはじめ、世界情勢と21世紀の展望などについて語り合った。"行動する作家"は訴えた。「今、何が大事かーーそれは人間です。人間の精神革命から始まります。自分は一個の人間として何ができるかを考え、行動を起こしていくことです。」

伸一は、このアンドレ・マルローとも、これらの語らいをまとめ、翌年8月、対談集『人間革命と人間の条件』を発刊している。

伸一は、5月20日は、パリ会館でアカデミー・フランセーズ会員で美術史家のルネ・ユイグと会談した。彼とも、前年、聖教新聞社で初めて会い、会談していた。戦時中、学芸員であった彼が、ナチスの手からルーブル美術館の至宝を守り抜いたことは、よく知られている。彼との対話も対談集『闇は暁を求めて』となって結実するのだ。

さらに翌22日の午前、伸一はパリの南ベトナム臨時革命政府の大使館を訪れ、レ・キ・バン代理大使と会談した。北ベトナム軍の戦車がサイゴンに無血入城し、南ベトナムが解放され、戦争にピリオドが打たれたのは、まだ二十日あまり前のことである。

会談では、今後の日本との外交、南と北の統一の問題などについて意見が交わされた。「どうか、会長から日本の人びとへ、われわれベトナム人民の心を伝えてください」その言葉に伸一は、平和と友好を願う魂の声を聞いた思いがした。

そして午後には、フランス社会党の執行委員で社会運動の論客として知られるジル・マルチネ宅を訪ねた。マルチネとも前年の3月に東京で会談しており、二度目の語らいであった。

伸一はこのヨーロッパ訪問では、可能な限り、識者と対話を重ねた。彼の胸には、トインビー博士の「人類全体を結束させていくために、若いあなたは、このような対話を、さらに広げていってください」との言葉がこだましていた。

そして、語り合った一人ひとりが、人間の変革を志向し、伸一の語る人間革命の哲理に感銘し、精神の共鳴音を高らかに響かせたのである。

19世紀後半、ビクトル・ユゴーは「フランス革命を完遂すること、そして、人間的な革命を始めることを義務とする、今世紀」と記した。

今、まさに、その「人間革命」の本格的な時代が、遂に、到来したのだ!
時は来たのだ!

<共鳴音の章 終了>






太字は 『新・人間革命』第21巻より 抜粋