『新・人間革命』第18巻 前進の章 268P~

戸田先生は、高らかに宣言している。「われわれの生命は永遠である。無始無終である。われわれは末法に七文字の法華経を流布すべき大任をおびて、出現したことを自覚いたしました。この境地にまかせて、われわれの位を判ずるならば、われわれは地涌の菩薩であります」

山本伸一は、徳島の全同志に、この崇高なる使命を、深く、深く、自覚してほしかったのである。彼は、強い力を込めて訴えた。「私たちは一人ひとりが、"時代の財"であり、"社会の宝石"ともいうべき存在なのであります。」

「人間性を輝かせ、もって生まれた長所を光らせ、職場にあっても、地域社会でも、貴重な人材となっていただきたい。そして、それぞれが一生のうちで、世のため、人のため、法のために、なんらかの見事な成果を残していただきたいのであります。」

ある人は折伏の闘将となることを決意し、ある人は職場の第一人者となることを誓った。

このころ、伸一が懸念していたのは、日本経済の行方であり、人びとの暮らしが脅かされつつあることであった。1973年の10月6日第四次中東戦争が始まったことがきっかけであった。

アラブ諸国による原油公示価格の大幅引き上げ、イスラエルを支援するアメリカへの石油供給削減が打ち出され、日本に対しては、原油価格を70%引き上げることが伝えられた。
安価な石油を大量輸入することによって経済発展を遂げてきた日本の衝撃は大きかった。

日本は大パニックに陥った。いわゆる「オイルショック」である。人びとは、世界は深く関連し合っていることを、改めて痛切に感じざるをえなかった。不安は、人間を異常な行動に駆り立てる。スーパーからトイレットペーパーが消えてしまうという事態が生じたのである。

そして、石油危機を契機に、時代は世界的なインフレと不況に突入していくのである。日本はこれまで、豊富で安価な輸入資源に頼って、大量生産、大量消費の構造を築き上げ、経済成長を遂げてきた。だが、この「オイルショック」によって、そうした日本経済の在り方そのものが、転換を迫られることになるのである。

品川区幹部総会に出席した伸一は、人びとの暮らしを圧迫している深刻なモノ不足、物価の高騰に言及していった。伸一は仏法の眼から見た時、社会の混乱の奥にある根本原因は何かについて語ろうと思った。

諫暁八幡抄の御文に『正直の人の頂を以て栖と為し、諂曲の人の心を以て亭ず』八幡の諸天善神は、正直の人の頭をすみかとし、心が曲がった不正直者のところには宿らないというのである。

ここでいる「正直」とは、単に自分の心に嘘や偽りがないということではない。真実の教えや正しい規範に対して正直であるということである。

大聖人は、正直には、「世間の正直」と「出世の正直」の二つがあることを述べられている。「世間の正直」とは、社会での人の道を違えぬことであり、「出世の正直」とは、仏法のうえで真実の教え通りに、誤りなく生きることである。

山本伸一は、人びとの生活を脅かしている、現在のモノ不足、インフレは、資源は無尽蔵であるかのように考え、大量消費を煽ってきた結果であると見ていた。そして、その背後には、欲望に翻弄され、便利さや快適さばかりを求める人間の生き方がある。

歴史学はトインビー博士は、強く訴えた。「人類の生存に対する現代の脅威は、人間一人ひとりの心の中の革命的な変革によってのみ、取り除くことができるものです」人間の心が転換されれば、その営みも変わり、社会環境、自然環境をも大きく変えていくことができる。その転換の道は、究極的には人間自身の変革、つまり人間革命しかない。


伸一は、品川のメンバーに、祈るような思いで語っていった。「この社会的な経済危機を乗り越える道は、結局、正法の流布以外にありません。」

「どこまでも、唱題第一に、広宣流布の使命を断じて忘れることなく、智慧を絞り、活路を開くために努力し抜いていくことなのであります。」


太字は 『新・人間革命』第18巻より 抜粋