『新・人間革命』第16巻 対話の章 P142~ 

山本伸一は、トインビー博士との対談にあたって、三つの大きな柱となるテーマを考えた。それは、第一に「人間とは何か」という問題であった。伸一は、人間を、動物的側面や肉体的、精神的側面など、多面的にとらえ、人間を取り巻く自然環境、社会環境について考察したいと思った。そのうえで、「いかに人生を生きるべきか」という根本命題に迫りたいと考えていた。

第二に、世界の平和を実現する方途について、意見を交わしたかった。現代の国々がかかえる諸問題を直視しながら、なぜ、戦争が繰り返されてきたのか、その愚かな歴史を断ち切るには、人類はどうすればよいのかを、語り合いたかった。

第三に、生命の根源に迫る対話である。「生命とは何か」「人間はいずこより現れ、いずこへ消えていくのか」などである。宗教が文明の創造に、いかなる役割を果たせるのか、また、博士が主張する「究極の精神的実在」について意見交換することを希望していたのである。

ともあれ、東洋人である伸一と、西洋を代表する知性との対話である。人類の未来を開く示唆に富んだ対談にしなくてはならないと、彼は深く決意し、準備に余念がなかった。

伸一は、今回、初めてモスクワ経由でパリに向かった。フランスの理事長になっていた川崎鋭治は、7年前に自分の二間のアパートをヨーロッパ事務所としてスタートしたことを思うと、まるで夢のようだと話した。パリ本部は、芝生の庭が広がり、広間のある鉄筋コンクリート造り2階建ての建物や、3階建ての別棟などがあった。

伸一は、メンバーからの強い要請があり、パリ滞在中は、パリ本部に宿泊することにした。ホテルとの往復時間がもったいないという思いもあった。

5月1日、パリ本部の開館式が行われた。5年前には見なかった、新しい顔が多かった。国により、文化も、習慣も、考え方も異なる。それゆえに、世界広宣流布もまた、その国の人が立ち上がり、責任をもって推進してこそ、仏法が深く人びとのなかに根差していくのである。


伸一は、開館記念勤行会で“各国、各地域で、広宣流布の一つの目標として、まず10年先をめざして前進してはどうか”と提案した。

開館式のあと、会館の庭で、パリ本部のあるソー市の市長夫妻をはじめ、多数の来賓を招いて祝賀の集いが行われた。来賓の多くは、“創価学会の会長である山本伸一とは、いかなる人なのか”と、大いに興味をいだいていた。

“衣をまとった僧侶が、いかにも神秘的な雰囲気を漂わせた人物ではないか”と思っていた人が多かったようだ。しかし、スーツ姿で、丁重だが、気さくにあいさつを交わす伸一に、来賓は、一様に驚きを隠せなかった。

帰り際、来賓の一人が「あなたたちの仏教の教えがいかなるものか、私にはわかりません。しかし、山本会長と接していて、ありのままの姿で、誠意をもって、私たちを迎え入れてくださっていることを感じました。人間を大切にする心があふれていました。大事なのはヒューマニズムです。そのヒューマニズムを、あなたたちの団体に感じました。」と言った。

日蓮仏法の、国境を超えた、世界宗教としての今日の広がりは、「人の振る舞い」によるところが大きいといえよう。

会長就任12周年となる5月3日を、パリの地で迎えたのである。海外で5月3日を迎えたのは、初めてのことであった。それは、まさに“世界広布新時代”の到来を象徴していた。

学会では、この1973年(昭和47年)5月3日を、創価教育学会の創立から始まる、7年ごとの節である「七つの鐘」の、「第七の鐘」のスタートとしていた。


太字は 『新・人間革命』第16巻より 抜粋