『新・人間革命』第14巻 智友の章 P17~

ステューデントパワーの波も、結局は、国家権力によって、打ち砕かれていくことになる。その象徴的な出来事が、1月、東大・安田講堂を占拠していた学生たちが、機動隊との2日間にわたる激しい攻防戦の末に、排除されたことであった。

東大紛争は、前年一月の、インターン制度廃止にともなう登録医制の導入に反対する、医学部の無期限ストに端を発していた。入学試験も次第に迫ってきていた。1月17日、大学側は籠城を続ける学生たちに「退去命令」を出した。

大学側は、警視庁に機動隊の出動を要請した。約8500人の制・私服警官が、続々と東大構内に入り始めた。警視庁のヘリコプターが轟音を響かせるなか、放水車、防石車など、百台近い車が導入されていった。警視庁は、学生たちの激しい抵抗に備え、一万発の催涙ガス弾を用意したほか、警察官の一部には、ピストルも携帯させていた。

学生たちは次々と逮捕された。不当逮捕などの現行犯で逮捕された学生は、女子学生13人を含む、375人と発表された。

山本伸一は、機動隊が入る数日前の夕刻、東大構内を視察し、安田講堂のすぐ側まで足を延ばした。半年余りも行動内に立てこもっている学生たちの様子が、気がかりでならなかったからである。伸一は、彼らに話しかけようとしたが、もしも、トラブルになってはいけない思い、言葉をのんだ。

ニュースでは、学生にも、機動隊にも、かなりのけが人が出ていると報じていた。伸一の胸は、激しく痛んだ。皆、未来を担う、大切な宝の青年たちである。また、立てこもっている学生のなかにも、学生部員や学会員の子弟がいるかもしれない。でも、どうすることもできなかった。

明大会の結成式の会場に伸一が到着した。学生の一人が「革命児として生き抜くとは、どういう生き方でしょうか。」学生時代は、革命を口にしながらも、就職してサラリーマンになれば、企業の論理に従わざるを得ない。

そうなれば、人間を抑圧する側の、歯車の一つになりかねないと思っていた。そのなかで、いかにして、革命の理想を貫けばよいのかというのが、多くの学生部員の悩みであったといってよい。

伸一は、「ロシア革命とか、昔の革命と同じ方法で、新しい社会の建設がなされると考えるのは、浅薄です。暴力革命で、社会が変革できるなんていうのは幻想です。そんな革命家像は過去の英雄です。」

「今は、社会は高度に発達し、多元化しています。利害も複雑に絡み合っている。矛盾と不合理を感じながらも、既存の秩序の安定のうえに、繁栄を楽しむ人びとが圧倒的多数を占めています。そうした現代社会に、単純な暴力革命の図式はあてはまりません。」

「求められているのは、権力の魔性、人間の魔性に打ち勝つ、確かなる道です。人間のエゴイズム、魔性を打ち破り、人間性が勝利していく時代をつくるには、仏法による以外にない。それは、生命の根本的な迷いである。『元本の無明』を断ち切る戦いだからです。」

「広宣流布とは、一個の人間の人間革命を機軸にした、総体革命なんです。仏法の生命尊厳の哲理と慈悲の精神を、政治、経済、教育、芸術など、あらゆる分野で打ち立て現実化していく作業といえます。」

「仏法者は現実の社会に対して眼を閉ざしてはならない。結論していえば、一人の人間の生命を変革する折伏に励むことこそが、漸進的で、最も確実な無血革命になるんです。さらに、生涯を広宣流布のために、生き抜くことこそが、真の革命児の生き方です。」

「私たちが、行おうとしているっことは、未だ、誰人も成しえない。新しい革命なんです。それを成し遂げ、新しい時代を築くのが君たちなんだ。」伸一は、一人ひとりに視線を注いだ。皆の顔は、新時代建設の決意に燃え輝いていた。



太字は 『新・人間革命』第14巻より 抜粋