『新・人間革命』第12巻 新緑の章 P~53

「事故を起こしてしまえば、すべては水の泡になってしまう。自分も家族も、苦しむし、学会にも迷惑をかけることになる。私は、大切な同志を、事故で怪我をさせたり、亡くすようなことは絶対にさせたくない・・・」

川崎は、伸一のアドバイスを守ろうと心に決めた。そして事実彼はそう努力してきた。

だが、たまたま睡眠不足が続き、疲労がたまっていたこともあり、"今日は仕方がない。題目を唱えながら、慎重に運転しよう"そして、疲労がたまったまま、長時間の運転をしたのである。

何事によらず、原則を踏み外して、"信心をしているから守られるはずだ""題目を唱えているから"大丈夫だろう"などと考えることは、全くの誤りである。これほど危険な考えはない。それ自体が、魔に侵された思考といってよい。

御聖訓には「小事つもりて大事となる」と説かれている。大きな事故といっても、その原因を形成している一つ一つの事柄は、一見ささいに思えることである。

だが、その小さなミスや小さな手抜きが、魔のつけ込む隙を与え、取り返しのつかない大事故を生むのだ。ゆえに、小事が大事なのである。

川崎夫妻の事故も、わずかな心の隙をついて起こったといってよい。

川崎は、フランスが誇る研究・教育機関コレージュ・ド・フランスの研究員をしていたが、前年に退職していたが、共同研究をしていたアメリカの教授が一緒に研究を続けようとアメリカに誘われていた。
川崎は、ヨーロッパ広布に生き抜こうと決めたが、研究生活が忘れられず、中途半端な思いを引きづって活動していたのだった。

その迷いが、自身の広布の使命を果たすうえで、完全燃焼を妨げていたのだ。信心をして小さな功徳を受けるのはたやすい。しかし、宿命の転換という大功徳を受けることは容易ではない。

宿命を形成してきた自身の心、性格を見つめ、生命を磨き、人間革命せずしては、宿命の転換はないからだ。

そして、それには、自身の広布の使命を果たし抜いていくことだ。決定した信心に立って唱題に励み、障魔と戦い、悪を打ち砕いていくことだ。

川崎は、厳しくいえば、徹して広布に走り抜くことができずにいたといってよい。彼の微妙な一念の揺らぎが、生命の大きな飛翔を妨げ、宿命という大障壁を、完全に飛び越えるにはいたらなかったのである。

川崎夫妻は、この事故を契機に、フランスの、そして、ヨーロッパの広宣流布のために、人生を捧げようと、心の底から決意した。

伸一は、日本に訪れた夫妻にあえて厳しく語った。「広宣流布のリーダーには、同志を幸福にする責任がある。そして、広布の重責を担えば担うほど、御書の仰せの通り、魔も盛んに競い起こるようになる。だが、決して、魔につけ入る隙を与えたり、負けるようなことがあってはならない。最高幹部としての責任が果たせなくなれば、みんなを苦しめることになるからです。」

伸一の言葉は、二人の胸に、鋭く突き刺さっていった。

伸一は、5月20日 パリ会館の入仏式に出席した。地元フランスをはじめ、ヨーロッパ各国から150人のメンバーが喜々として集って来た。

伸一は、訴えた。「ヨーロッパも、10年後、20年後には、必ず大発展することは間違いありません。だが、それには、互いに人を頼るのではなく、皆が一人立たなければならない。"私がいる限り、たとえ自分一人になっても、絶対に広宣流布をしてみせる。必ず勝つ!"と獅子となって戦い続ける人が何人いるかです。その一人の発心、一人の勝利が積み重なってこそ、大勝利がある。」

「"時代を開く""歴史を創る"といっても、特別なことではない。一人ひとりが自分の決めた課題に挑み、今日を勝ち抜くことです。今、何をするかです。」


太字は 『新・人間革命』第12巻より 抜粋