『新・人間革命』第9巻 鳳雛の章 P177~

佐渡御書の「獅子身中の虫の獅子を食」の講義では、「広宣流布を破壊していくのは、外敵ではなく、“獅子身中の虫”です。たとえば、最高幹部であった者が、野心から、あるいは嫉妬から、学会を裏切り、造反し、躍起になって攻撃しようとする。それと戦い、学会を守っていくのが諸君です。」

「“獅子身中の虫”というのは、造反者だけではありません。仮に、立場は幹部であっても、堕落し、怠惰、無気力になったり、虚栄を張って見栄っ張りになり、すなわち自己中心主義に陥り、一念が広宣流布から離れていくならば、“獅子身中の虫”です。そうした幹部がいれば、みんながやる気を失い、学会は蝕まれていく。怖いのは内部です。恐ろしいのも内部です。」

「絶対に、“獅子身中の虫”になってはならないし、諸君のなかから、”獅子身中の虫”をわかしてもならない。」伸一の渾身の講義は、若き清らかな、高等部員の生命に注がれていった。

第二期がスタートするにあたり、受講生の男子は『鳳雛会』女子は『鳳雛グループ』を結成する。伸一は、メンバーへの講義を、青春時代の思い出に終わらせるのではなく、広宣流布のために、生涯にわたる永続的な軌道をつくっておきたかったのである。

剣豪の修行のごとき研鑽が、既に伝統となりつつあったのである。何事も、肝心なのは最初といえる。

7月16日、日蓮大聖人が『立正安国論』をもって国主諫暁をされた、意義深い日に 初の鳳雛会・鳳雛グループの野外研修が行われ、毎年集まって、成長の節を刻む記念の日となった。

伸一は、語った。「私がこれほどまでに期待しているのに、もし、諸君に広宣流布の総仕上げをしていこうという心がなく、団結もできないようならば、それは、もはや諸君が悪いのではなく、私の方に福運がないんだ。」

「私はこれからも、諸君のことを見続けていきます。何人が落ち、何人が残るか、どのように変化していくかーーその結果を見たうえで、広布の総仕上げのバトンタッチの方法を考えていきたい。」

「私は、今日、諸君に薫発の因を与えた。しかし、自ら大使命に生き抜いていこうという一念、努力がなければ、結果として、使命の芽は、出てこない。広宣流布のために何をするかです。」

皆から質問を受けることにした伸一。
工藤きみ子という、小児マヒの後遺症で片足が不自由なメンバーが、思いあぐねたような様子で尋ねた。教師になりたいが、体が不自由なうえ、経済的にも 難しい。これからどうすればいいのか、どうなっていくのかわからないと涙ぐみながら話した。

工藤は、使命の大きさを思えば思うほど、自分の置かれた現実を、どう開いていけばよいのかわからず、もがき苦しんでいたのであろう。

その時、伸一の厳しい叱咤が飛んだ。「信心は感傷ではない。泣いたからといって、何も解決しないではないか!」緊張が走った。室内は静寂に包まれた。

「あなたには、御本尊があるではないか!迷ってはいけない。ハンディを嘆いて、なんになるのか。いくら嘆いてみても、事態は何も変わりません。また、すべての人が、なんらかの悩みをかかえているものだ。いっさいが恵まれた人間などいません。学会っ子ならば、どんな立場や状況にあろうが、果敢に挑戦し、人生に勝っていくことだ。どうなるかではなく、自分がどうするかです。」

「本当に教員になりたければ、必ず、なってみせると決めなさい。もし、大学に進学することが経済的に大変ならば、アルバイトをして学費をつくればよい。夜学に通ってもよい。使命に生きていこうとすることは、理想論を語ることではない。観念の遊戯ではない。足もとを見つめて、現実を打開していくのが信心です。困難を乗り越えていく姿のなかに、信心の輝きがある。」

「いかなる状況下にあっても、誰よりも力強く、誰よりも明るく、誰よりも清らかに生き抜き、自分は、最高に幸福であると言い切れる人生を送ることが、あなたの使命なんです」

工藤は、唇を噛み締め、何度も、何度も頷いた。「そうだ。負けてはいけない。何があっても、負けてはだめだよ。強くなれ!頑張れ!頑張れ!頑張るんだよ」

伸一の言葉には、厳しさのなかにも、優しさがあふれていた。


太字は 『新・人間革命』第9巻より 抜粋