『新・人間革命』第12巻 新緑の章 P16~
最後に 伸一は 学会の指揮をとった。雄渾にして、優雅な、大鷲が舞いゆくような指揮である。“次の七年間も、私は力の限り、命の限り、広宣流布の指揮を、断固、とり続ける!”こう誓いながらの、出陣の舞であった。
5月13日には、山本伸一は、アメリカ、ヨーロッパ各国の歴訪の旅に出発した。早くも世界広布の第二ラウンドへ、伸一の大回転が始まったのである。伸一の最初の訪問国は、アメリカで、ハワイ、ロサンゼルス、ニューヨークを回ってヨーローパに入り、フランス、イタリア、スイス、オランダを歴訪することになる。
ホノルルに到着すると ハワイに誕生した本誓寺の入仏式が行われた。7年前の10月、伸一が世界平和への旅の第一歩を、このハワイの地に印した時、座談会に集ってきたのは、わずか30数人にすぎなかった。それが、今や太平洋の一大拠点に発展し、会館に引き続き、寺院まで建立されるにいたったのである。メンバーは既に2千世帯を超えていた。
7年前を知る同行の幹部たちにとっては、まさに隔世の感があった。
大発展の 原動力がなんであったか。それは、伸一の同志一人ひとりへの徹底した励ましであった。
組織といっても、あるいは運動といっても、それを支えているのは、一人ひとりの人間である。その人間が一念を転換し、使命に目覚めたち、最大の力を発揮していくならば、すべてを変えることができる。ゆえに、個人指導という、目立たぬ、地道な活動こそが、広宣流布の生命線を握る、最も重要な作業となるのである。
対話による一念の転換ーーそこに、勝利を打ち立てる一切の鍵がある。
ハワイ会館に入ると皆が握手を求めてきた。伸一は、その手を強く握り返しながら、ねぎらいの言葉をかけた。握手をしながら、その人のための励ましの言葉を、瞬時に紡ぎ出した。
幹部が伸一に尋ねた。「先生がそれぞれのメンバーに語られる、激励の言葉を聞かせていただきまして、その内容が本人にとって、本当にぴったりのことばかりなので驚いております。どうすれば、ああいう言葉をかけることができるのでしょうか」
「私は真剣なんです!」伸一から返ってきたのは、その一言であった。特別な秘訣や技巧などはない。
真剣ーーこの二字のなかには、すべてが含まれる。真剣であれば、勇気も出る。力も涌く。知恵も回る。また、真剣の人には、ふざけも、油断も、怠惰もない。だから、負けないのである。そして、そこには、健気さが放つ、誠実なる人格の輝きがある。
伸一が、一人ひとりに的確な励ましを送ることができるのも、“もうこの人と会うのは最後かもしれない”という、一期一会の思いで、瞬間、瞬間、魂を燃焼し尽くして、激励にあたっているからである。
相手が、”どういう気持ちでいるのか”“何を悩んでいるのか”“どんな生活をしているのか”など、一念を研ぎ澄まして洞察し、発心と成長を祈り念じて、魂の言葉を発しているのだ。
伸一のメンバーへの激励は、あらゆる場所で続けられた。
彼は、一人ひとりと心を結び合いたかった。
学会は、ただ組織があるから強いのではない。そこに心の結合があるから強いのである。
5月15日には、ロサンゼルスに移り、ロス郊外のエチワンダに完成した妙法寺の入仏式に出席した。この寺は、平屋建てで一部二階の、高い天井が特徴の近代的な木造建築であった。庭には芝生が植えられ、築山、池、松などを配した日本庭園もつくられていた。
ブドウ畑やオレンジ畑だった土地を整地して、雑草も、一本一本、丹念に抜き取り、石を運び、樹木を植えていったのである。そのための労働力は、すべてメンバーが提供したものであった。
"寺院ができれば、出張御授戒を待つことなく、いつでも御本尊流布をすることができる。どれだけ広宣流布が進めやすくなることか!"そう思うと、メンバーは嬉しくてたまらず、自ら勇んで、重労働をかって出たのである。
太字は 『新・人間革命』第12巻より 抜粋